大相撲の三賞とは?選考基準・賞金から横綱大関が対象外の真相まで
大相撲の本場所が千秋楽を迎える際、賜杯の行方とともに土俵の興奮を最高潮に押し上げるのが「三賞(殊勲賞・敢闘賞・技能賞)」の発表です。幕内最高優勝が土俵の頂点に君臨する者に与えられる栄誉であるならば、三賞は15日間の土俵で鮮烈な輝きを放ち、観客の心を揺さぶった実力者たちに贈られる勲章といえます。
しかし、その選考の内幕や厳格なルールについては、長年の相撲ファンであっても意外な盲点が存在します。「なぜ大関や横綱はどれほど活躍しても三賞をもらえないのか」「なぜ時折『該当者なし』という非情な決定が下されるのか」。本稿では、番付社会の頂点に位置する大相撲独自の評価メカニズムを、現場の記者目線と制度設計の深層から徹底的に解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:大相撲の三賞は「関脇以下の幕内力士」かつ「8勝以上の勝ち越し」が絶対条件であり、横綱・大関は選考対象外。
- 要点2:賞金額は各賞一律200万円であり、力士褒賞金の加算ポイントとしても将来の収入に直結する重要なインセンティブ。
- 要点3:「該当者なし」は安易な妥協を許さない選考基準の厳格さの表れであり、千秋楽条件付き受賞のドラマが本場所の醍醐味を生み出す。
【大相撲三賞とは】殊勲賞・敢闘賞・技能賞の基本と創設の歴史
大相撲の長い歴史において、大相撲三賞とは戦後復興期の昭和22年(1947年)秋場所に創設された公式表彰制度です。GHQ統治下で娯楽の多様化が進む中、土俵の士気を高め、優勝争い以外の土俵上にもスポットライトを当てる目的で導入されました。
三賞はそれぞれ独自の評価軸を持っています。 優勝した横綱を破るなど大物食いを果たした力士に贈られる「殊勲賞」、最後まで諦めない気迫あふれる相撲で土俵を沸かせた力士に贈られる「敢闘賞」、そして卓越した相撲技術や多彩な技を披露した力士に贈られる「技能賞」の3つで構成されます。
創設当初から現在に至るまで変わらない鉄則が、勝ち越しと三賞の関係です。どれほど上位陣を総崩れにし、どれほど観客を熱狂させる妙技を見せたとしても、15日間の本場所で8勝7敗以上の「勝ち越し」を収めなければ、受賞の権利は一切発生しません。7勝8敗で負け越した力士に三賞が贈られることは制度上絶対にあり得ないのです。

【選考基準の真相】殊勲賞・敢闘賞・技能賞の受賞条件を徹底比較
三賞はそれぞれ明確に異なる評価基準を持っています。千秋楽の取組前に開催される審判部と報道陣による選考では、数字上の白星だけでなく、対戦相手の番付や相撲内容が極めて厳密に精査されます。
1. 殊勲賞の選考基準:土俵の主役を倒した「最大の功労者」
殊勲賞の選考基準で最も重視されるのは、「優勝争いの行方を左右する殊勲を挙げたか」という点です。具体的には、その場所の優勝力士に土をつけた力士、あるいは横綱・大関を複数撃破した平幕・三役力士が最有力候補となります。単に白星を重ねるだけでなく、「場所のドラマを動かした決定的な1勝」を挙げた力士に与えられる栄誉です。
2. 敢闘賞の受賞条件:最後まで土俵を盛り上げた「不屈の闘志」
敢闘賞の受賞条件は、文字通り「敢闘精神」が評価対象となります。優勝争いに千秋楽近くまで絡み続けた平幕力士、新入幕や再入幕で二桁勝利(10勝以上)を挙げた若手・復活力士などが典型的な受賞パターンです。泥臭くとも前に出続ける相撲や、逆境を跳ね返して連勝街道を走った力士が選出されます。
3. 技能賞の決まり手:教科書通りの美しさと卓越した技術
技能賞の決まり手において誤解されがちなのは、「派手な珍しい決まり手を出せばもらえる」という思い込みです。日本相撲協会が技能賞で高く評価するのは、小手先の奇襲技ではなく、「立ち合いからの理にかなった攻防」「前褌を引いての鮮やかな出し投げ」「相手の力を利用した見事な下手投げ」など、相撲の基本に忠実かつ卓越した技術です。もちろん、内掛けや居反りといった難度の高い技で白星を量産した場合も強力な選考材料となります。
経済的な側面である三賞の賞金額は、各賞ともに本賞200万円が支給されます。さらに、受賞歴は力士の持ち給金(力士褒賞金)の計算基準に加算されるため、現役中の毎場所の支給額が底上げされるという、力士人生における極めて実利的なインセンティブも備わっています。
| 賞の名称 | 選考基準・評価ポイント | 賞金額(本賞) | 受賞の典型パターン |
|---|---|---|---|
| 殊勲賞 | 横綱・大関の撃破、優勝力士への勝利、場所の流れを変えた星 | 200万円 | 平幕で横綱に金星を挙げ、自身も勝ち越した力士 |
| 敢闘賞 | 優勝争いを牽引した健闘、新入幕・若手力士の二桁勝利 | 200万円 | 終盤まで賜杯争いに残り11勝以上を挙げた前頭上位・中位 |
| 技能賞 | 卓越した相撲技術、基本に忠実な投げ・寄り、多彩な決まり手 | 200万円 | 小兵力士が大型力士を技術で翻弄し、好成績を残したケース |
なぜ横綱・大関は対象外?三賞選考委員会の知られざる舞台裏
相撲初心者が真っ先に抱く疑問が、「14勝1敗で圧倒的な相撲を見せた横綱や大関が、なぜ三賞を受賞しないのか」という点です。横綱大関が対象外の理由は、番付の最高峰に位置する看板力士としての役割と責任に根ざしています。
横綱・大関は、存在そのものが「殊勲」「敢闘」「技能」のすべてを体現していることが前提の地位です。彼らに求められるのは三賞ではなく「幕内最高優勝」ただ一つ。三賞はもともと、上位陣に立ち向かう関脇以下の力士の奮闘を称え、将来の看板力士を育成・発掘するための奨励賞として設計された経緯があります。最高峰の地位にある者が下位向けの奨励賞を受け取ることは、大相撲の美学と番付秩序に反するというのが明確な論理です。
この三賞を決定するのが、千秋楽の午後1時過ぎに国技館内の応接室で開催される三賞選考委員会です。審判部長をはじめとする審判委員の親方衆、そして新聞社や放送局の相撲担当キャップ(記者クラブ)が一堂に会し、侃々褌々の議論を交わします。
記者投票をもとに議論が進められますが、過半数の票を得た力士であっても、審判部から「内容が後ろ向き」「引き技ばかりで相撲に品位がない」と難色を示され、再審議になることも珍しくありません。ここで頻繁に出されるのが「千秋楽勝てば受賞」という条件付きの決定です。千秋楽の土俵に上がる力士自身もその条件を知らされており、賞金200万円と名誉をかけた極限のプレッシャーの中で最後の相撲に挑むことになります。

【実態検証】「該当者なし」が出る決定的な理由とファン騒然の選考議論
三賞選考において時折世間を騒がせるのが、「全賞該当者なし」あるいは「特定部門の該当者なし」という極めてシビアな結論です。三賞該当者なしの条件には、相撲界が伝統として守り続ける矜持が表れています。
該当者なしとなる主な理由は以下の3点に集約されます。
- 勝ち越し条件の未達:候補に挙がっていた力士が千秋楽で敗れ、7勝8敗で終わった場合。
- 内容の厳格審査:二桁勝利を挙げても、対戦相手のレベルが低かったり、叩き込みなどの引き技が極端に多かったりして「賞の品格に届かない」と判断された場合。
- 横綱・大関の総崩れ:上位陣が序盤で休場・総崩れとなり、平幕力士が上位を破る「殊勲」の価値そのものが薄れてしまった場合。
SNSやネット掲示板では、千秋楽に該当者なしが発表されるたびに「10勝している力士がいるのになぜあげないのか」「厳しすぎるのではないか」といったファンの議論が巻き起こります。しかし、日本相撲協会の関係者やベテラン記者の証言によれば、「賞の権威を保つためには、安易なバラマキを排し、妥協のないラインを守り続けることが不可欠」とされています。この妥協のない厳格さこそが、受賞した力士の価値を何倍にも高めているのです。
歴代三賞受賞者ランキングと今場所の三賞結果を読み解くポイント
大相撲の歴史を紐解くと、歴代三賞受賞者一覧には昭和・平成・令和を彩った名力士たちの足跡が刻まれています。特に三賞受賞回数ランキングの上位に名を連ねる力士は、横綱・大関に匹敵する、あるいはそれ以上にファンから愛された「最強の平幕・関脇」たちです。
| 順位 | 四股名 | 三賞総受賞回数 | 内訳(殊勲 / 敢闘 / 技能) | 最高位・力士の特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 安芸乃島 勝巳 | 19回 | 殊勲 7 / 敢闘 8 / 技能 4 | 関脇(金星16個の歴代最多記録保持者) |
| 2位 | 琴錦 登 | 18回 | 殊勲 7 / 敢闘 3 / 技能 8 | 関脇(平幕で2度の幕内最高優勝を達成) |
| 3位 | 魁皇 博之 | 15回 | 殊勲 10 / 敢闘 5 / 技能 0 | 大関(大関昇進前までに驚異的な受賞を重ねる) |
| 4位 | 鶴竜 力三郎 | 9回 | 殊勲 2 / 敢闘 0 / 技能 7 | 第71代横綱(卓越した技能賞の常連から頂点へ) |
| 4位タイ | 栃東 大裕 | 12回 | 殊勲 3 / 敢闘 2 / 技能 7 | 大関(技能派として三賞トリプル受賞も経験) |
歴代最多19回の受賞を誇る元関脇・安芸乃島は、自著や当時のインタビューで「大関に上がれなかった悔しさはあるが、横綱を倒して三賞を取ることこそが自分の生き様だった」と語っています。三賞は、単なる通過点ではなく、土俵で生きる男たちのプライドそのものなのです。
今場所の三賞結果をチェックする際は、単に誰が受賞したかを見るだけでなく、「選考委員会でどのような条件が付いていたのか」「千秋楽の勝敗で運命がどう分かれたのか」という背景に注目すると、観戦の解像度が格段に上がります。
【プロの結論】評価制度とモチベーション設計から見る三賞の教訓
大相撲の三賞制度は、現代の組織論や人事評価システムの観点からも極めて秀逸な構造を持っています。
頂点に立つトップ層(横綱・大関)には最高の結果(優勝)のみを求め、中間層や若手(平幕・三役)には「大物撃破(殊勲)」「プロセスと健闘(敢闘)」「専門技術の研鑽(技能)」という多面的な評価軸を用意して報いる。この二重構造があるからこそ、組織全体の停滞を防ぎ、下位からの下克上が絶え間なく生まれます。明確な基準と厳格な運用が、個人のモチベーションと組織の熱量を最大化させるという好例です。

【三 賞】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:勝ち越していない(7勝8敗など)力士が三賞を受賞できる特例はありますか?
A1:いかなる例外も認められていません。大相撲の規定により、8勝以上の勝ち越しが三賞受賞の絶対条件です。たとえ横綱を3人破る歴史的な金星を挙げたとしても、負け越した瞬間に選考対象から完全に除外されます。
Q2:1場所で殊勲賞・敢闘賞・技能賞のすべてを同時に獲得する「トリプル受賞」は可能ですか?
A2:可能です。極めて稀ですが、過去に大受、出島、栃東、琴光喜、そして令和に入ってからも若隆景などが1場所で三賞すべてを独占する「トリプル受賞」を達成しています。この場合、賞金も合計600万円が授与されます。
Q3:十両や幕下の力士が三賞を受賞することはできますか?
A3:できません。三賞は「幕内力士(前頭〜関脇)」を対象とした表彰制度です。十両以下の各段には、三賞ではなく各段の「優勝賞金(十両優勝200万円、幕下優勝50万円など)」が個別に設定されています。
まとめ:三賞の選考ロジックを知れば相撲観戦の解像度が跳ね上がる
大相撲の三賞は、単なる成績優秀者へのボーナスではありません。そこには、戦後から続く番付社会の美学、妥協を許さない選考委員会の哲学、そして人生をかけて千秋楽の土俵に上がる力士たちの執念が凝縮されています。
「なぜ横綱は大関は対象外なのか」「なぜ勝ち越しが絶対条件なのか」という選考ロジックを理解した上で土俵を見つめると、千秋楽の後半戦だけでなく、序盤・中盤の平幕力士の一番にまで熱いドラマが見えてきます。今場所の土俵でも、誰が波乱を起こし、誰が三賞の栄誉を勝ち取るのか。その選考の行方にぜひ注目してください。 (出典: 三 賞(Yahoo!ニュース))