契約書で失敗しない「若しくは」と「又は」の違いと階層ルール
契約書のリーガルチェックや公用文の作成を行う際、「若しくは」と「又は」の使い分けに迷った経験を持つビジネスパーソンは少なくありません。日常会話や一般的なメールではどちらも英語の「or」に相当する選択的接続詞として同義に扱われがちですが、法務文書や行政文書においては厳格なルールが存在します。
仮にこの使い分けを誤ると、契約条項の効力範囲が意図と異なる形で法的に解釈され、思わぬ係争リスクや損害賠償問題に発展する危険性すら孕んでいます。法制執務の標準規範や最新の公用文指針に照らし合わせながら、実務で迷わない論理的な構造ルールを徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:単独の選択(1段階)では「又は」を用い、「若しくは」は2段階以上の階層構造における小さいグループの結合にのみ使用する
- 要点2:「及び・並びに」の併合的接続詞とは主従関係が逆転しており、選択的接続詞では「又は」が最大グループを束ねる
- 要点3:接続詞の誤用は契約の法的解釈を根本から歪めるため、2026年現在のリーガルテック環境下でも正確な構文理解が必須となる
【基本原則】「若しくは」と「又は」の決定的な違いと階層ルールの全貌
法律条文や契約条項における選択的接続詞には、厳格な序列が定められています。その根本原則は極めて明快であり、「又は」は大きな選択のグループを繋ぎ、「若しくは」は小さな選択のグループを繋ぐという点に集約されます。
法制執務における法令用語の接続詞ルールでは、選択の段階が1つしかない(単純な二者択一や同列の並列)場合、必ず「又は」を用います。この段階で「若しくは」を単独で使用することは、公用文作成の規範上認められていません。
「若しくは」が登場するのは、選択肢の中にさらに細かい枝分かれが存在する2段階以上の階層構造が発生した場合に限られます。複数の選択肢をグループ分けして整理する際、最も大きな区切りに「又は」を配置し、その内側の小さな区切りに「若しくは」を配置するのが、若しくはと又はの階層構造と優先順位の鉄則です。
日常感覚では「若しくは」の方が形式ばっていて丁寧な響きを持つと感じる人が多い傾向にありますが、若しくはの正しい意味と用法および又はの正しい意味と用法において、丁寧さの差は一切関係ありません。あくまで「構文の階層を示すための論理記号」として機能している事実を押さえる必要があります。

【徹底比較】「若しくは・又は」と「及び・並びに」の構造的対比表
公用文や契約書で頻出する接続詞を整理する上で、最も混乱を招きやすいのが「選択的接続詞(若しくは/又は)」と「併合的接続詞(及び/並びに)」の力関係の違いです。両者は階層の使い分けが正反対に設計されています。
| 項目・接続詞分類 | 階層ルール(大・小の役割) | 構文パターン例 | 実務における注意点 |
|---|---|---|---|
| 選択的接続詞 (又は/若しくは) | 大グループ=又は 小グループ=若しくは | (A 若しくは B) 又は (C 若しくは D) | 1段階の選択では「又は」のみ使用。小グループを複数重ねる場合は「若しくは」を反復する。 |
| 併合的接続詞 (並びに/及び) | 大グループ=並びに 小グループ=及び | (A 及び B) 並びに (C 及び D) | 1段階の並列では「及び」のみ使用。「並びに」は大きな枠組みを連結するときにのみ現れる。 |
| 3段階以上の連結 | 最大グループのみ指定語、それ以下は同一接続詞の連続 | 選択:((A若しくはB)若しくはC) 又は D 併合:((A及びB)及びC) 並びに D | 階層が深くなるほど読解負荷が跳ね上がるため、箇条書きへの分解が推奨される。 |
上記の通り、及びと並びにと若しくはと又はの違いを比較すると、併合の「並びに」が最大区分を担うのに対し、選択では「又は」が最大区分を担います。この「逆転構造」を頭に入れておくことが、公用文や法令を正しく読み解く最大の鍵です。
契約書と公用文における実践ルール|例文と具体例で読み解く使い分け
実際のビジネス現場や条文作成において、どのように使い分けるべきかを段階別の例文で確認します。
パターン1:単純な二者択一・同格の選択(1段階)
選択肢が単に並んでいる場合、使用するのは「又は」一択です。
【例文】「甲又は乙は、本契約を解除することができる。」
【例文】「東京、大阪又は福岡において開催する。」
3つ以上の要素を同格で並べる場合は、「A、B又はC」のように読点で繋ぎ、最後の区切りのみに「又は」を置きます。ここで「A、B若しくはC」とするのは誤用です。
パターン2:階層が分かれる複合的な選択(2段階)
条件や対象がカテゴリー別に分かれている場合、下位の結合に「若しくは」、上位の結合に「又は」を配置します。
【例文】「自動車若しくは原動機付自転車、又は船舶若しくは航空機を操縦する場合」
この文構造脈脈では、「陸上交通機関(自動車・原付)」という小グループと「海空交通機関(船舶・航空機)」という小グループがまず形成され、その2大カテゴリーの選択として中央の「又は」が機能しています。若しくはと又はの使い分けが正確になされているため、読み手は誤読することなく分類を把握できます。
パターン3:3段階以上の選択構造(法制執務の特殊ルール)
法律条文において3段階以上の選択構造が必要となった場合、法律条文における選択的接続詞の運用規律では、「最大の区切りに『又は』を1回だけ使い、それ以外のより小さな区切りはすべて『若しくは』を使う」という決まりがあります。
【例文】「{(A 若しくは B)若しくは C} 又は D」
どれほど階層が深くなろうとも、「又は」は文中で最も大きな枝分かれの1箇所にしか登場しません。このルールを知らないと、複雑な法律文の骨格を見誤ることになります。

【実態検証】法務現場のリアルと契約トラブルに直結する落とし穴
リーガルチェックの現場では、接続詞ひとつの違いが深刻な法的解釈の争いを生むケースが後を絶ちません。法務関連団体の実態調査や契約審査データによると、企業間で締結される契約書のドラフト段階において、接続詞の階層構造の乱れに起因する修正指摘が約3割以上の案件で発生しています。
典型的なトラブル事例として挙げられるのが、損害賠償の免責条項や契約解除要件の解釈を巡る対立です。例えば、以下のような条文ドラフトが存在したとします。
【曖昧なドラフト例】「天災地変、戦争若しくは暴動、又は輸送機関の事故」
起草者が「(天災地変・戦争・暴動)という不可抗力事由」と「輸送機関の事故」を対比させる意図で書いた場合、「天災地変」の後に読点があることで、「天災地変」単独と「戦争若しくは暴動」の主従関係が不明瞭になり、裁判等で「天災地変と戦争」が結びついているのか「戦争と暴動」が結びついているのかについて双方が自社に有利な解釈を主張する紛争の火種となります。
契約書リーガルチェック接続詞の確認作業においては、文章の修飾関係が数学の「括弧(かっこ)」のように一意に定まっているかを厳密に検証しなければなりません。AI契約書レビューツールの普及が進む現在においても、最終的な文脈の主従判定は人間の法務担当者による精緻な構文把握が不可欠です。
一般に知られていない盲点とネットの誤解|日常語とのギャップ
インターネット上の質問サイトやSNSでは、「若しくは」と「又は」に関するいくつかの根強い誤解が見受けられます。実務上の混乱を防ぐため、代表的な誤認を整理します。
誤解1:「若しくは」は「又は」のより改まった丁寧な表現である
これは日常語のニュアンスから生じる典型的な間違いです。ビジネスレターや挨拶文において「貴社若しくはご担当者様」のように書くケースが見られますが、法制上の定義では丁寧さの高低差は存在せず、純粋に階層の上下(又は=大、若しくは=小)を表す記号に過ぎません。
誤解2:「公用文作成要領」の改定で使い分けルールが廃止された?
2022年に文化審議会国語分科会が取りまとめた『公用文作成の考え方』(70年ぶりに旧来の公用文作成要領を抜本見直し)では、一般の国民に向けた公用文において、過度に難解な接続詞の階層構造を避け、可能な限り「箇条書き」や平易な表記を用いる方針が打ち出されました。
しかし、これは「分かりやすさのために長文の複雑な階層を減らす」という運用上の推奨であり、公用文作成要領における接続詞の論理的定義そのものが消滅したわけではありません。法令や契約書、厳密な権利義務を定める規程類においては、依然として従来の階層ルールが厳格に適用されています。

【プロの結論】ビジネス文書での誤用を防ぐ判断基準と実務フロー
契約書作成やビジネス文書の執筆において、誤用を排除しつつ正確な意思疎通を図るための判断基準は以下の通りです。
1. 階層ルールを厳格に適用すべき文書
- 契約書・協定書・覚書:1文字の解釈相違が金銭的リスクに直結するため、法制執務ルールを完全適用する。
- 就業規則・社内規程:労使間の紛争防止やコンプライアンス維持のため、選択基準を明確化する。
- 利用規約・プライバシーポリシー:ユーザーへの法的主張の根拠となるため、曖昧な接続詞を排除する。
2. 認知負荷を下げるためのリライト基準
「若しくは」と「又は」が1文の中に何度も入り乱れるような長文は、どれほど文法的に正しくても読者の認知的負荷を高め、誤読を誘発します。選択肢が3層以上に達する場合は、無理に1つの文に接続詞で詰め込むのではなく、「第〇条 各号のいずれかに該当するとき」として箇条書き(号)に落とし込むのが、実務上最も安全で洗練されたドラフティング技術です。
【若しくは 又は 違い】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:選択肢が「A」「B」「C」の3つある場合、どのように書くのが正しいですか?
A1:同列の選択肢が3つある場合は「A、B又はC」と表記します。読点で並べ、最後の接続部分に「又は」を配置します。階層構造が存在しない単純並列において「若しくは」を使用するのは文法上の誤りです。
Q2:「若しくは」を単独(1段階の選択)で使う例外はありますか?
A2:法律条文や公用文の作成規範においては、単独の選択肢で「若しくは」を使う例外はありません。必ず「又は」を使用します。ただし、日常的な口語や文学作品等では表現の揺らぎとして使われることがあります。
Q3:英語の契約書を日本語に翻訳する際、「or」はどう訳し分けますか?
A3:英文契約書の「or」が単純な並列であれば「又は」と訳します。修飾関係や括弧構造によって包含関係が存在する場合は、外側の大きな区分に「又は」、内側のグループに「若しくは」を割り当てて構造を再現します。
Q4:「あるいは(或いは)」は契約書や公用文で使えますか?
A4:「あるいは」も選択を示す言葉ですが、法令用語としては原則として用いられません。法令や契約書では「又は」と「若しくは」に役割が統一されているため、正式な法律文書では使用を避けるのが通例です。
まとめ:文脈の階層を見極めて正確なリーガルコミュニケーションを
「若しくは」と「又は」の使い分けは、単なる言葉の好みの問題ではなく、文書の論理構造を正確に規定するための重要な法的ツールです。基本となる「単独・大グループ=又は」「小グループ=若しくは」という階層関係を正しく理解していれば、契約書ドラフトの作成やリーガルチェックの精度は格段に向上します。
ビジネス文書での誤用防止まとめとして、複雑な複層構造が生じた際には接続詞の多用に頼りすぎず、箇条書きを活用して視覚的・論理的に明快なドキュメント作成を心がけてください。正確な日本語の接続詞運用こそが、予期せぬ法的トラブルを防ぎ、企業の信頼性を強固に担保します。 (出典: 若しくは 又は 違い(Yahoo!ニュース))