馬頭琴とは?スーホの白い馬の伝説と音色の秘密・値段や弾き方を徹底解説
小学校の国語教科書で誰もが一度は心を揺さぶられた名作『スーホの白い馬』。少年スーホと白馬の哀しくも美しい絆、そして白馬の亡骸から生まれたとされるモンゴルの伝統弦楽器が「馬頭琴(ばとうきん)」です。棹の先端に凛々しい馬の頭部が彫られたその姿と、「草原のチェロ」と称される深く温かい音色は、世代を超えて多くの人々を魅了し続けています。
しかし、なぜ楽器の先端に馬の頭が刻まれているのか、物語に描かれた誕生秘話はどこまでが実話なのか、そして弦や弓には本当に馬の毛が使われているのかといった疑問を持つ方も少なくありません。本記事では、馬頭琴の歴史的背景から楽器としての精密な構造、独特の演奏技法、現代における購入相場やレッスン事情に至るまで、専門的な取材データと最新の知見をもとに分かりやすく解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:馬頭琴はモンゴル語で「モリンホール(馬の楽器)」と呼ばれる2弦の擦弦楽器であり、豊かな倍音を含む「草原のチェロ」と評される。
- 要点2:『スーホの白い馬』の感動的な物語は内モンゴル等の民話を基にしており、遊牧民にとって馬が単なる家畜を超えた「魂の盟友」であることを象徴している。
- 要点3:指板に弦を押し付けず「爪の生え際で横から押す」独特の運指技術を持ち、入門用は5万円前後、本格的な木製モデルは15万〜30万円台が現在の市場相場。
【基礎知識】馬頭琴とは?モンゴル伝統楽器「モリンホール」の正体
馬頭琴は、モンゴル国および中国の内モンゴル自治区を中心に古くから受け継がれてきた2本の弦を持つ擦弦楽器(弓で弦をこすって音を出す楽器)です。現地モンゴル語では「モリンホール(Morin Khuur / ᠮᠣᠷᠢᠨ ᠬᠤᠭᠣᠷ)」と呼ばれ、直訳するとまさに「馬の楽器」を意味します。棹(ネック)の先端に美しい馬の頭部(馬頭)の彫刻が施されていることから、中国語表記の「馬頭琴(Mǎtóuqín)」がそのまま日本でも広く定着しました。
その最大の特徴は、一度聴いたら忘れられない包容力のある中低音とノスタルジックな音色にあります。西洋のチェロやヴィオラに似た周波数帯を持ちながら、アジア特有の豊かな倍音を含んでおり、現地の草原を吹き抜ける風の音や、疾走する馬の蹄の響き、嘶きまでも生々しく表現することができます。2003年にはユネスコの「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」(2008年に無形文化遺産に統合)にも選定され、名実ともに世界を代表する民族楽器として認められています。
音楽史的な起源をたどると、唐代から宋代にかけて北方民族の間で用いられていた弦楽器「奚琴(けいきん)」から発展・派生したと考えられています。チンギス・ハンの時代(13世紀初頭)にはすでに宮廷や遊牧民のゲル(移動式住居)の中で演奏されていた記録が残っており、長い歴史の中で形状を進化させてきました。かつては皮を張った素朴な共鳴胴が主流でしたが、1980年代に著名な演奏家ダリマと制作技師らの手によって木面の中音馬頭琴が開発されたことで、現代のオーケストラやステージ演奏にも適した音量と音程の安定性を獲得しました。
【伝説の真相】「スーホの白い馬」は実話なのか?馬頭琴誕生の起源を検証
日本国内で馬頭琴という存在が広く知られる最大の契機となったのは、1967年に大塚勇三氏の再話、赤羽末吉氏の絵によって出版された福音館書店の絵本『スーホの白い馬』です。小学校2年生の国語教科書に長年採用され続けているため、殿様に奪われ矢傷を負って死んでしまった愛馬の骨や皮、毛を使ってスーホが最初の馬頭琴を作り上げる場面に、涙した記憶を持つ読者も多いはずです。
では、この物語は完全な史実なのでしょうか。民俗学や口承文芸の研究データを紐解くと、このエピソードは内モンゴル東部に伝わる民間伝承『アルタイの琴』や『フフ・ナムジル(青いナムジル)の伝説』などの民話を再構成した創作的物語であることが分かっています。モンゴル現地には馬頭琴の起源にまつわる伝承が複数存在しており、最も代表的な「フフ・ナムジル伝説」では、空飛ぶ愛馬の翼を嫉妬深い領主の娘に切り落とされて失った青年が、愛馬の魂を永遠に残すためにその骨と皮で楽器を作ったと伝えられています。
物語の細部こそ伝承ごとに異なりますが、根底に流れるテーマは一つに集約されます。それは、厳しい大自然の中で生きる遊牧民にとって、馬は単なる移動手段や家畜ではなく、「家族であり、精神的な片割れ(魂の象徴)」であったという事実です。愛する馬の死を受け入れ、その身体の一部を楽器に昇華させて歌い継ぐという行為は、遊牧文化における死生観と動物への深い敬意の表れであり、現代人の琴線に触れる普遍的な感動の源泉となっています。
【構造と仕組み】弦の素材は本当に馬の毛?独特な演奏方法と弾き方のリアル
馬頭琴の構造は、一見すると西洋の擦弦楽器に似ていますが、細部には遊牧民ならではの卓越した知恵と独自の力学が詰まっています。
楽器全体は台形の木製共鳴胴、長い棹、そして先端の馬頭彫刻から構成されています。かつては共鳴胴に子馬や羊の皮が張られていましたが、現代の標準的な楽器ではスプルース(トウヒ)やメイプル(カエデ)などの木板が用いられ、気温や湿度の変化に強い構造へ進化しました。胴体の表面には「F字孔」に似た音孔(サウンドホール)が開けられ、豊かなアコースティックの響きを生み出します。
そして読者が最も気になる「弦の素材」についてですが、伝統的な馬頭琴では実際に馬の尻尾の毛束が使われています。一般的な弦楽器のように1本の金属線やガットを用いるのではなく、数十本から百数十本もの馬の毛を束ねて1本の弦に仕立てているのが最大の特徴です。
- 外弦(細い弦/高音側):雌馬の尻尾の毛を約80〜105本束ねる(現代のナイロン弦仕様では約100本相当)
- 内弦(太い弦/低音側):雄馬の尻尾の毛を約100〜130本束ねる(雄の毛の方が太くコシがあるため)
※なお、2020年代以降の現代ステージや日常練習においては、湿度によるピッチの狂いを防ぎ耐久性を高めるため、極細のナイロン繊維や特殊合成繊維を束ねた弦が主流となっています。
さらに驚くべきは、その独特の弾き方(演奏方法)です。バイオリンやギターのように「指板(指で弦を押し付ける板)の上に指を乗せて弦を上から押さえる」ことはしません。馬頭琴の棹には指板がなく、弦が空中に浮いた状態になっています。演奏者は「人差し指や中指の爪の生え際、あるいは薬指の第一関節の内側を、弦の側面から横方向に押し当てる」という極めて珍しい技法で音程をコントロールします。この特殊な押弦法が、弦の振動を完全に止めず、あの幻想的で幽玄な倍音を生み出す秘訣となっているのです。

【徹底比較】馬頭琴の種類・素材・値段相場|初心者の選び方データ一覧
「馬頭琴を実際に手に入れて演奏してみたい」と考える方に向けて、現在日本国内および現地の楽器工房で流通している馬頭琴のタイプ、仕様、実売価格の目安を比較表にまとめました。2026年現在の取引データや専門店の実勢価格に基づいた客観的な指標です。
| グレード・種類 | 詳細・素材データ | 一般的な相場価格 | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| 入門用・練習用モデル | 合板(積層材)ボディ、ナイロン弦、機械式ペグ(糸巻き)搭載 | 約40,000円〜70,000円 | チューニングが狂いにくく、湿度の高い日本の環境でも扱いやすい。初心者が最初に選ぶエントリー機として最適。 |
| 中級・本格木製モデル | 単板スプルース/メイプル、高品質ナイロン弦または本馬毛弦、精密な馬頭彫刻 | 約120,000円〜250,000円 | 音の伸びと倍音の美しさが格段に向上。アンサンブルや発表会、本格的なソロ演奏を目指す人向けの標準機。 |
| マスター工房製・プロ仕様 | 厳選された長期乾燥銘木、著名マイスターによる手彫り彫刻、オーダーメイド調整 | 約300,000円〜600,000円以上 | プロ演奏家がコンサートホールで使用するレベル。圧倒的な音圧と繊細な表現力を兼ね備える工芸品。 |
| 伝統皮張りタイプ(シキト) | 共鳴胴に羊皮・子馬皮を張った古式モデル、本馬毛弦 | 約80,000円〜180,000円 | 素朴でかすれたような独特の古楽器サウンド。湿度管理が非常にデリケートなため、上級・民俗音楽愛好家向け。 |
【実態検証】愛好家の生の声と教室・レッスン事情|挫折しないための条件
日本国内における馬頭琴の愛好家コミュニティや音楽教室の現場を取材すると、弦楽器未経験者からバイオリン経験者まで幅広い層がこの楽器に魅了されている実態が浮かび上がってきます。
SNSや知恵袋などのコミュニティに寄せられる実際の声を見ると、「爪の横で弦を押さえる感覚に最初は戸惑ったが、一度綺麗な音が出た瞬間の倍音の心地よさは他の楽器では味わえない」「指先を痛めにくいので、ギターで指が痛くて挫折した自分でも続けられた」というポジティブな実感が目立ちます。一方で、「独学用の教則本や楽譜がバイオリンやピアノに比べて圧倒的に少ない」「近くに教えてくれる教室がない」という情報アクセスの壁を挙げる声も根強く存在します。
現在、東京、大阪、名古屋などの大都市圏を中心に専門の馬頭琴教室やカルチャーセンターの講座が開設されているほか、近年はモンゴル人プロ演奏家によるオンラインマンツーマンレッスンが急速に普及しています。代表的な名曲である『ジョノン・ハル(黒走馬)』や『草原情歌』、『万馬奔騰(数千頭の馬が草原を駆ける様子を模した超絶技巧曲)』などを目標に設定することで、独学でもモチベーションを保ちながら上達していく人が増えています。

一般に知られていない盲点とネットの誤解|プロが見る受容の基準
馬頭琴にまつわるネット上の言説には、一部で過度なロマンティシズムや事実誤認が混ざり合っているケースも見受けられます。客観的な視点から代表的な2つの誤解を正しておきましょう。
誤解1:「スーホの白い馬のストーリーはモンゴル国民全員が知る共通の史実である」
実際には、前述のとおり『スーホの白い馬』は大塚勇三氏が再話した絵本によって日本で広く知れ渡った側面が強く、モンゴル本国では「フフ・ナムジル」をはじめとする多様な地域伝承の方が一般的です。物語の美しさは普遍的ですが、それが唯一無二の正史であると断定するのは早計です。
誤解2:「本物の馬の尻尾の毛を使った弦でないと本物の音は出ない」
伝統的な響きを追求する上では本馬毛に軍配が上がりますが、本馬毛は湿度の高い日本の夏に毛が伸びて音程が著しく不安定になり、毛切れも頻発します。現代のトッププロの多くも、安定したピッチと耐久性を確保するために特殊合成ナイロン弦を好んで採用しています。初心者ほど「扱いやすいナイロン弦仕様」を選ぶのが賢明な選択です。
【プロの結論】馬頭琴が向いている人・慎重になるべき人の判断基準
民族楽器としての特殊性や演奏環境を踏まえ、馬頭琴の導入に向いている人と慎重に検討すべき人の条件を明確に提示します。
- 向いている人:
- アコースティックな中低音やノスタルジックな倍音の響きに深く癒やされたい人
- 西洋音楽のクラシック理論だけでなく、民族音楽の自由な表現や即興性を楽しみたい人
- ギターの硬いスチール弦で指先を痛めて挫折した経験がある人(爪の生え際や指側面を使うため指先の痛みは少ない)
- 慎重になるべき人:
- 一般的なJ-POPやアニソンなどの最新楽譜が大量に手に入ると期待している人(自分で採譜・移調する工夫が必要)
- 完全な無音環境でしか練習できない集合住宅に住んでいる人(共鳴胴が大きいためチェロと同等程度の音量が出る。弱音器や消音フェルトの併用が必須)
【馬頭琴とは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:バイオリンやチェロの経験があれば簡単に弾けるようになりますか?
A1:弓の動かし方(ボーイング)の基礎感覚は共通しているため、音を出すまでのスピードは経験者の方が早いです。ただし、バイオリンのように指板へ上から指を押し当てる癖があると、馬頭琴特有の「弦の側面を横から押し込む」タッチに慣れるまで少し違和感を覚える場合があります。別物のアプローチとして取り組むのがコツです。
Q2:近くに教室がありません。完全な独学でも演奏できるようになりますか?
A2:独学でも基本的なメロディを弾くことは十分に可能です。現在はYouTube等の動画教材やオンラインレッスンが充実しているため、姿勢や弓の持ち方、押弦の角度を動画で視覚的に確認しながら練習すれば、独学でも着実に上達できます。
Q3:自宅で練習する際、騒音トラブルにならないか心配です。対策はありますか?
A3:馬頭琴はアコースティック楽器のため相応の音量が出ますが、駒(ブリッジ)に装着する「金属製・ゴム製の弱音器(ミュート)」や、胴体の内部に布を挟み込むことで音量を約50〜70%カットできます。夜間を除けば一般的な住宅でも十分に練習可能です。
Q4:弦のチューニング(調弦)はどのように行うのですか?
A4:標準的なチューニングは、太い内弦を「ファ(F)」、細い外弦を4度上の「シ♭(B♭)」に合わせるのが一般的です(または内弦ソ/外弦ドに合わせる調弦もあります)。市販のギター用クリップチューナーを使って簡単に合わせることができます。
まとめ:草原の魂を響かせる馬頭琴の奥深い魅力に触れる
『スーホの白い馬』の哀切な物語とともに語り継がれてきた馬頭琴。それは単なる異国の民芸品ではなく、遊牧の民が自然や愛馬と心を通わせる中で磨き上げてきた「魂の楽器」です。
2本の弦と弓が擦れ合う瞬間に生まれる奥深い倍音は、情報過多でストレスの多い現代人の心を解きほぐす不思議な力を持っています。近年は扱いやすいナイロン弦モデルや手頃な入門用セットも充実し、日本国内からでも気軽にその第一歩を踏み出せる環境が整いました。教科書の記憶の中で眠っていたあの澄んだ音色を、今度はあなた自身の手で響かせてみてはいかがでしょうか。 (出典: 馬頭琴 と は(Yahoo!ニュース))